はじめに
日本は自然災害が多発する国であり、特に高齢者が集まる介護施設では防災対策は単なる安全確保にとどまりません。災害時の不安や混乱に対応するためにもその備えが介護の質を左右する重要な要素となります。ここでは、災害時に「介護の質」を維持するための災害対策を説明します!
高齢者介護と災害時のリスク
避難拒否・移動困難
認知症の高齢者は、急な環境変化に混乱し、避難を拒否することがあります。また、身体的な制約から自力での避難が困難なケースも多く、職員の迅速かつ適切な対応が求められます
トイレ問題
災害時には水道や排水設備が使用できなくなる可能性があり、トイレの確保が課題となります。
薬・食事の個別対応
高齢者は常用薬や特別な食事は必要な場合が多く、災害時もこれらを確保する必要があります。個別の備蓄計画と対応マニュアルの整備が重要です。
災害時に介護の質を守る体制とは?
避難計画の作成・共有
施設の入居者は市町村が作成する「個別避難計画」の対象外になります。施設は利用者ごとに、支援体制・避難方法・避難経路・避難先・薬の有無などを含めた避難計画を作成する必要があります。計画計画は年1回以上、利用者のご家族。ケアマネジャー・主治医と共有・更新することが望ましいです。 (参考:内閣府「個別避難計画の作成に関するガイドライン」)
実効性のある避難訓練の実施と多様化
「年2回、形だけの訓練」では意味がありません。利用者参加型の訓練、かつ想定シナリオを現実に即したものにする必要があります。
・夜間想定訓練(職員が少ない中での対応)
・垂直避難訓練(エレベーターが使えない状態での階段移動)
・認知症の方への声かけ・誘導訓練(パニック時対応)
認知症の方への声掛けの際には、実際の災害時に避難を拒否することが考えられるので、①普段から関わっており信頼関係のある職員中心でが避難誘導を行うこと②突然の大声・ベルではなくやさしい声かけ・手引きで誘導すること③段階的に避難距離を伸ばすことなどを心がけると認知症の方にとってより易しい避難訓練を行うことができます。
家族・地域との連携体制の強化
災害時、介護施設は単独で対応するには限界があります。家族・地域・行政との円滑な連携体制を事前に構築しておくことは、介護の継続性を保つ上で極めて重要です。
① 家族との情報共有と安否確認体制
緊急連絡先は、一人に限らず複数名分を事前に登録しておくことで、連絡の確実性が高まります。さらに、災害時にどのように安否確認の手段を家族と事前に取り決めておくことで、混乱を最小限に抑えられます。
② 地域包括支援センター・自治体との協力体制
地域包括支援センターは、介護が必要な高齢者に関する情報を日常的に把握しているため、災害時の支援対象者をまとめた「要配慮者名簿(災害弱者リスト)」との連携拠点となります。
施設はこの名簿と連携することで、利用者ごとに、誰が・いつ・どのように避難支援を行うのかという支援計画(個別避難計画)の実効性を高めることができます。また、自治体が定める福祉避難所としての役割分担なども、地域包括支援センターや自治体との連携が不可欠です。
備蓄内容の最適化
一般的に最低3日分、可能であれば7日分の物資備蓄が推奨されます。高齢者は基礎疾患、栄養制限、認知症など多様な背景を抱えており、「量」ではなく「質」と「適合性」も重要な要素です。
①食事:嚥下機能と栄養バランスに配慮
常食ではなく、嚥下食・ペースト食・ミキサー食を中心とした備蓄が必須になります。低栄養防止のため、高齢者向けの「高エネルギー流動食」や「介護食品」を導入することも推奨されます。
②医療対応:常用薬等の在庫管理
降圧薬、糖尿病薬、抗てんかん薬などは服用の中断が命にかかわります。服薬管理表に基づき、個別の常用薬を1週間分前倒しで確保するなどの対策が考えられます。薬のほかにも、トイレ排泄用品も計画的に備蓄をすることが欠かせません。高齢者施設等における災害対応マニュアル(東京都保健医療局) 介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン(厚生労働省)

まとめ:災害時にも“介護の尊厳”を守るために
介護施設における災害対策は、単なる安全確保ではなく、利用者の尊厳を守るための取り組みでもあります。日頃からの備えと訓練、地域との連携が、災害時の混乱を最小限に抑え、介護の質を維持する鍵となります。
