1.はじめに:教えすぎも放置も、成長の妨げに
介護現場での後輩指導は、単に知識や技術を伝えるだけでなく、相手の成長を促す重要なプロセスです。しかし、指導が過剰になりすぎると自立性を損ない、逆に放置しすぎると不安やミスを招く可能性があります。適切なバランスを保つことが、効果的な育成につながります。ここではバランス維持につながるOJT計画を紹介します。
2.OJT計画の立て方:意図的・計画的な育成がカギ
OJT(On-the-Job Training)とは、職務を通じて、①態度・価値観、②知識・情報、③技術・技能等を指導育成する全ての活動を教える教育手法です。OJT は研修会や勉強会で習得することが難しい実践力を身につけることができます。
OJTは日常業務を通じて行われますが、計画性がなければ効果は半減します。以下のステップを踏むことで、計画的な育成が可能になります。
① 目標設定:「何を、どのレベルまでできるようにするか」
育成対象者の経験や習得状況に応じて、「この業務をいつまでに、どの水準で行えるようになるか」を明確にします。また、目標だけでなく教えるべき内容やその手順の明確化も非常に重要です。
例:
「1か月以内に排泄介助を独立して行えるようにする」(目標)
「排泄介助の流れ・感染対策・プライバシー保護」(教える内容)
“観察→実施→評価”の流れを前提に、具体的・段階的な目標を立てることが重要です。
② 業務の選定:「適切な業務を切り出す」
いきなり全部を任せるのではなく、対象者の成長段階に合った業務を選定します。
例:
「移乗介助」→はじめは“見学”、次に“声かけのみ”、最後に“介助まで実施”という段階的な分割
「記録」→“口頭で報告する”段階から、“記録文を書く練習”へ移行
「1週目:先輩の見学 2週目:部分実施 3週目:一部主導 4週目:通し実施」
指導者が「どこまで任せるか」「どこで伴走するか」を可視化しておくことが、教えすぎ・任せすぎの防止になります。
③ スケジュール作成:「進捗と見通しを共有」
前述の「1週目は見学中心、2週目から部分実施~」のように、業務と育成を連動させたスケジュールを立てることで、安心感と達成感が得られます。
また、事前に「この日はこの業務に挑戦してみよう」と目標を伝えておくと、対象者も目的を持って業務に臨みやすくなります。
スケジュールは紙やExcelなどで共有し、定期的に更新していくのが理想です。
④ 評価とフィードバック:「成長実感と修正機会をセットで」
定期的に振り返りを行い、「よかった点」と「もう少し工夫できる点」の両方を具体的に伝えることが重要です。
良いフィードバックの例:
「〇〇さんへの声かけがとても丁寧でよかったです」
「もう少し前傾姿勢を引き出せるように、立ち位置を工夫してみましょう」
フィードバックは、行動に基づいた具体性と、次の行動への提案がセットであることが効果的です。
このような計画的なアプローチにより、指導者と育成対象者の双方が目的意識を持って取り組むことができます。
OJT計画の具体例
東京都世田谷区の社会福祉法人せたがや樫の木会では、独自のOJTマニュアルを整備し、それに基づいた教育研修を実施しています。このOJTマニュアルは、日常業務から新人指導まで、現場で起こりうるあらゆる場面を想定しながら、網羅的かつ実践的に記載されている点が大きな特徴です。これからOJT体制の整備を検討している施設にとっては、非常に参考になる事例といえるでしょう。「どのように教えるか」「何を段階的に任せていくか」といった指導のフローや視点を見直す際に、導入のヒントとして活用することをおすすめします。
まとめ:育成は“共に成長する”プロセス
後輩指導とは、単に知識や技術を教える一方通行の行為ではありません。むしろ、指導者自身が「伝え方」や「他者への関わり方」を見直し、学び直す機会でもあります。適切なOJT計画を実践することで、育成対象者の自立とスキル向上を支援できるだけでなく、「任せる勇気」「見守る視点」を養うことにもつながります。とくに介護現場では、忙しさのなかでつい「早く覚えさせたい」「ミスさせたくない」という気持ちが先行しがちですが、段階的な育成によって、教える側も“ゆとりと仕組み”を持って指導できるようになります。“誰かの成長を支える”だけでなく、“支えることで自分も育つ”という意識を持ち、共に歩む姿勢を大切にすることが、より良い職場環境と、持続可能なチームづくりの鍵となります。
![]() | 監修: 山口開渡 先生 |

