1.怒りや暴言の背景にある「BPSD」とは?

高齢者が突然怒り出したり、暴言を吐いたりする行動は、単なる性格の問題ではなく、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)の一環である可能性があります。BPSDとは、認知症の中核症状(記憶障害や見当識障害など)に加えて現れる、さまざまな行動や心理的な症状を指します。

これらの症状は、本人の性格や生活環境、周囲の人との関わりなどが影響し合って現れるものであり、適切な対応によって軽減・消失することもあります。

2.怒りや暴言の原因を理解する

怒りっぽさや暴言は、以下のような要因が絡み合って生じることがあります:

  • 感情のコントロール機能の低下:前頭葉の機能低下により、感情を抑制する能力が低下します。

  • 不安や混乱:記憶障害や見当識障害により、周囲の状況が理解できず、不安や混乱を感じます。

  • 自尊心の傷つき:できないことが増えることで、自尊心が傷つき、苛立ちや怒りとして表れることがあります。

3.“否定しない対応”の具体例

高齢者が怒りや暴言を示した際、「そんなこと言ってはいけません」「間違っていますよ」と否定してしまうと、相手の感情がさらに高ぶり、症状が悪化してしまう可能性があります。BPSDの対応においては、相手の感情を受け止め、落ち着ける対応が最も重要です。

以下のような対応が有効です:

  • 暴言・暴力のきっかけをみつける
     暴言を発したタイミングを振り返り、どんなきっかけで感情がコントロールできなくなったのか、そのきっかけや原因をまずみつけ、除外することを心がけましょう。

  • 共感的な傾聴
     「それは違います」と訂正するのではなく、「そう感じたんですね」「嫌な思いをされたのですね」と気持ちに寄り添う言葉を返すことで、本人の安心感や信頼を得られます。「でも」「だけど」といった否定の言葉を使わずに共感することが重要です。

  • 話題の転換
     怒りの原因にこだわるのではなく、興味のある別の話題や思い出話にさりげなく切り替えることで、気分を変えることができます。たとえば、「お昼は何が食べたいですか?」など、日常の会話に誘導するのも効果的です。

  • 距離を取る
     感情が高ぶっている時は自分を抑えることが難しいです。興奮が激しく、声を荒らげたり物に当たるなどの行動が見られる場合は、無理に関わろうとせず、少し距離を置いて落ち着くのを待つことも一つの方法です。環境を静かに整えたり、別の職員と交代することも有効です。

4.介護者の心構え

BPSDへの対応では、介護者の心構えや態度がその後の状況を大きく左右します。まず何よりも、介護者自身が冷静さを保ち、過度なストレスをため込まないことが大切です。

以下のポイントに注意しましょう:

  • 感情的にならない
     怒りや暴言に反応してこちらも感情的になってしまうと、対立が激化する恐れがあります。深呼吸をする、少し間を置くなど、自身を落ち着かせる工夫が有効です。

  • 安全の確保を最優先に
     暴言だけでなく、身体的な暴力や自傷行為が見られる場合には、まず本人と周囲の安全を最優先に考えましょう。必要であれば、管理者や医師に速やかに報告し、対応を協議する必要があります。

  • 情報共有を徹底する
     「どのような場面で怒りや暴言が出やすいのか」「効果のあった対応法は何か」などを記録として残し、他職種と共有することで、施設全体で一貫した対応がとれ、本人にも安心感を与えることができます。

5.まとめ:理解と共感が対応の鍵

高齢者の怒りや暴言は、しばしば「わかってもらえない」「尊重されていない」といった感情の表れです。それを単なる迷惑行為として捉えるのではなく、不安や混乱、自尊心の喪失といった背景を理解する視点が欠かせません。

否定せずに受け止め、共感と安心感を提供することで、本人の情緒は安定し、症状が和らぐこともあります。介護者自身の心の余裕と、チームで支える環境づくりが、BPSD対応の土台です。

日々のケアの中で、「理解する姿勢」こそが最も強力な支援になることを、忘れないようにしましょう。

(参考:朝日新聞 Reライフ.net   認知症の周辺症状(BPSD)を理解して無理のない介護生活を)