1.「介助=手伝うこと」ではない

介護職員が日常的に行う立ち上がり・移乗・食事介助。これらの動作には、実は“生活リハビリ”としての要素が多く含まれています。
たとえば、食事介助であっても、手を添えるタイミングや声かけの工夫ひとつで、嚥下機能や上肢の活動が促されるケースもあります。

高齢者のADL(日常生活動作)は、「身体を使わない状態が続くこと」や「必要以上に手助けしすぎること」によって、短期間で大きく低下してしまうことが知られています。
「手伝うこと」が常に本人のためになるとは限らないのです。

2.“やりすぎ介助”がもたらす機能低下

介助の本来の目的は、「できないことを補うこと」ではなく、「できる力を最大限活かすこと」です。
しかし、現場では「失敗させないように」「手間を減らすために」といった理由から、“先回りした介助”が常態化していることもあります。

 よくある“やりすぎ”の例

  • 全介助の立ち上がり支援:膝の力やバランス能力の低下を招く

  • 移乗の抱きかかえ:自力で腰をずらす機会が奪われる

  • 食事のフル介助:手を使う動作・咀嚼・嚥下機能の退行に直結

このような「やりすぎ介助」が続くと、ADLが低下し、介護度の重度化を引き起こしてしまうおそれもあります。

3.日常ケアを“生活リハ”に変える介助の工夫

■ 立ち上がり介助のポイント

立ち上がりは脚力や体幹機能を保つ重要な動作であり、可能な限り本人に“やらせる”ことが重要です。

  • 本人のタイミングを待つ:「いち、にの、さん」で声かけ→自分のペースで動ける

  • 支持物を活用:ベッド柵、手すり、椅子の背などを“つかまる・押す”動作で脚力を使わせる

  • 介助側の位置:真正面ではなく、斜め前で支えることで自発的な前傾を誘導

■ 移乗介助のポイント

ベッド⇔車椅子、トイレ⇔椅子といった移乗は日常的な動作ですが、「本人の残存機能を使わせる支援」が基本です。

  • 移乗距離を最小に:車椅子とベッドを適切な角度に寄せることで自力移乗を促進

  • 段階的な誘導:「お尻をずらして」「足を前に出して」など、分かりやすく段階的な声かけ

  • 全面的な持ち上げは避ける:体幹・下肢の使用を減らさない工夫を

■ 食事介助のポイント

食事介助では、誤嚥予防と同時に“自力で食べる力”をどう保つかが問われます。

  • スプーンを“持たせる”ことから始める:すくえなくても、持つことに意味がある

  • 1口ごとにタイミングを取る:「よく噛んで」「飲み込んでから次を」などリズムの誘導

  • 誤嚥防止だけでなく“自立を支える”視点を:むせを恐れてすべてを介助するのではなく、ポジショニング・食形態・時間配分で工夫する

4.リハ職との連携で“やらせる勇気”を持つ

理学療法士・作業療法士は、利用者の機能評価や改善計画のプロです。
介護職が「不安からやりすぎてしまう」ことを乗り越えるには、リハ職と“どこまで任せてよいか”を具体的に共有することがカギとなります。

連携の具体例

  • 「昼食時は上肢が疲れてくるが、朝は自分で食べられる」

  • 「座位は不安定だが、立ち上がりは声かけだけで可能」

  • 「週に1回は完全自立でやってもらってみて、様子を記録してほしい」

こうした“介助の強度の調整”を職種間で共有することで、
職員全体がADL維持・改善の方向性を共有できるようになります。

さらに、LIFEへのデータ提出やADL維持加算の取得においても、「どこをどう支援しているか」が記録に現れる必要があり、
介護職の介助方法そのものが加算要件と結びつく場面が増えています。

5.まとめ:介助の本質は「できる力を守る」こと

介護では、「助けること」が優しさだと考えがちですが、“あえて手を出さない”ことが最も有効な支援になる場面もあります。

  • 自分で動く

  • 自分で食べる

  • 自分で選ぶ

これらの行為は、身体機能だけでなく、生活への意欲・尊厳の保持にも直結します。

介助は「支援の終点」ではなく、“可能性の出発点”です。
日々の何気ない動作を“生活リハ”に変える視点を持つことが、
介護の質を高め、本人の生活の幅を広げ、施設全体の価値を底上げする第一歩となります。

(参考:厚労省 科学的介護情報システム(LIFE)について

   厚労省 LIFE の活用状況の把握および ADL維持等加算の拡充の影響に関する調査研究

監修: 山口開渡 先生
<プロフィール>
登録理学療法士、両立支援コーディネーター、リスクマネジャーを保有。
大学卒業後、リハビリテーション特化型の通所介護事業所に入社。
その後、ケアミックス病院に転職、介護老人保健施設にて通所リハや訪問リハに従事。急性期~緩和・在宅期と全ての病期を経験。