1.夜間せん妄とは?
せん妄は、急激な意識や認知の変動を伴う精神状態の乱れであり、とくに夜間に悪化するケースが多く見られます。主に以下の症状が見られ、早期発見と環境へのアプローチが重要です。
夜、急に不安を訴える
声を荒げたり徘徊したりする
見当識の混乱
“意識が覚醒”して眠れない
せん妄には薬物治療と非薬物療法の2つがあります。ここでは施設内で取り組める非薬物療法を紹介します。非薬物療法は、せん妄を促進する因子を遠ざける方法です。せん妄に対して早期離床や視聴覚障害への補助など、促進因子への介入を行うことで予防効果を高めたとの報告があり、非薬物療法の重要性が注目されています。日本サイコオンコロジー学会 せん妄の治療・ケア
2.環境調整:安心につながる小さな工夫
夜間せん妄は、見当識の低下や不安感から生じやすく、環境による心理的な刺激が大きな影響を与えます。以下のような工夫で、「時間・どこにいるか」をを理解しやすくし、安心できる空間づくりを意識しましょう。
間接照明や常夜灯の活用:夜間に強い蛍光灯や白色灯を使用すると、脳が昼と錯覚し混乱を助長することがあります。オレンジ系の暖色間接照明や常夜灯を使い、覚醒を促さない“穏やかな明るさ”を確保しましょう。
雑音の遮断:廊下の足音やナースコール音、テレビ音声が高齢者にはストレスとなる場合があります。ドアクッションやカーテンなどで音を緩衝し、落ち着いた音環境を整えることが大切です。
時計・カレンダーの設置:「今は何時か」「どこにいるのか」といった“見当識”が失われると、不安や混乱が強まります。大きな文字のカレンダーやデジタル時計を視認しやすい位置に設置し、状況把握を助けます。
室温、湿度の調整:室温が暑すぎる、寒すぎる、不快な湿度などは睡眠障害や不穏の原因になります。温度22~25℃、湿度50~60%程度を目安に、エアコンや加湿器を調整します。
身体的・心理的な安心感づくり:温タオルで手足を温める、背中をさする、静かな声かけをするなど、“触れる”安心感は高齢者にとって非常に有効です。足浴や温罨法(おんあんぽう)は、血流を促進しリラックス効果があるため、就寝前に取り入れることを検討しましょう。
3.睡眠誘導:体内時計を整え、せん妄を防ぐ
高齢者の体内リズムは加齢とともに乱れやすく、昼夜逆転や浅い眠りがせん妄リスクを高めます。睡眠の質を高めるために、以下のような生活習慣と夜間ケアの工夫が有効です。
・ 昼夜のメリハリをつける生活設計:日中に活動が少ないと夜に眠れず、夜間せん妄につながりやすくなります。午前中の散歩・日光浴・軽い体操などで体を動かし、メラトニン分泌を促進します。
・ 夜間ケアは最小限に:頻繁な排泄誘導や体位変換などで睡眠が断続的に中断されると、睡眠の質が大きく低下します。ケアのタイミングは調整し、必要最低限に抑えるようにします。
・入浴、清拭、夕食のタイミング:入浴・清拭、夕食のタイミングが夜間睡眠リズムに影響する可能性があり、最適な時間配分が睡眠の質に直結します。夕食は遅くとも就寝2〜3時間前までに行うこと、入浴清拭は夜間22時~4時を避けることを心がけましょう
4.記録と医療連携:
医療機関は専門的なせん妄治療の“唯一の場”であり、施設内の対応には限界があります。そのため、夜間せん妄への効果的対応には、「記録」と「医療との連携」を通じて専門家の力を借りることが不可欠です。
記録すべき項目とその目的
記録内容 | なぜ記録するのか |
|---|---|
① 発症時刻・兆候・症状(見当識消失・発語内容・行動など) | 発症前後のパターンを把握し、せん妄かどうかを判断する基礎データになります。 |
② 環境状況(照明の明るさ・音の有無・室温) | どのような環境下でせん妄が起きたかを明確にし、環境調整の見直しに役立ちます。 |
③ 実施ケア内容と介助者名 | 誰がどんな対応をしたかを明記することで、対策の効果測定や振り返りが可能になります。 |
④ 医療対応・相談内容(医師・精神科・看護師とのやり取り) | 処方変更や専門見解を得た履歴が明確になり、連携がスムーズに進みます。 |
医療連携の要点
薬剤性せん妄のチェック
抗不安薬や利尿薬などはせん妄誘発要因となることがあり、服薬内容の見直しが必要なケースもあります 。
医師・精神科への即時相談
記録をした兆候・症状を基に、迅速に専門医に相談し、処方変更や中止の柔軟な判断を仰ぐ体制を整えることが重要です。
5.まとめ:”安心できる夜”はチームで作る
夜間せん妄は、単に夜間の行動を抑えるだけでなく、「環境・習慣・記録・医療連携」の4つの柱によって支えられるバランス型ケアです。これらをチームで意識的に調整することが、利用者の夜間の不安やせん妄を穏やかにする鍵となります。間接照明などの環境の調整や、望ましい睡眠リズムへの誘導、正確な記録とそれに基づく医療機関との連携が重要になります。これらは一人の職員の努力ではなく、それぞれの担当のチームとしての努力に他なりません。
![]() | 監修: 山口開渡 先生 |

